大判例

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最高裁判所大法廷 昭和29年(あ)2990号 判決 1960年1月27日

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

被告人の上告趣意について。

論旨は、被告人の業としたHS式無熱高周波療法が、あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法にいう医業類似行為として同法の適用を受け禁止されるものであるならば、同法は憲法二二条に違反する無効な法律であるから、かかる法律により被告人を処罰することはできない。本件HS式無熱高周波療法は有効無害の療法であって公共の福祉に反しないので、これを禁止する右法律は違憲であり、被告人の所為は罪とならないものであるというに帰する。

憲法二二条は、何人も、公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を有することを保障している。されば、あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法一二条が何人も同法一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならないと規定し、同条に違反した者を同一四条が処罰するのは、これらの医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するものと認めたが故にほかならない。ところで、医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するのは、かかる業務行為が人の健康に害を及ぼす虞があるからである。それ故前記法律が医業類似行為を業とすることを禁止処罰するのも人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨と解しなければならないのであって、このような禁止処罰は公共の福祉上必要であるから前記法律一二条、一四条は憲法二二条に反するものではない。しかるに、原審弁護人の本件HS式無熱高周波療法はいささかも人体に危害を与えず、また保健衛生上なんら悪影響がないのであるから、これが施行を業とするのは少しも公共の福祉に反せず従って憲法二二条によって保障された職業選択の自由に属するとの控訴趣意に対し、原判決は被告人の業とした本件HS式無熱高周波療法が人の健康に害を及ぼす虞があるか否かの点についてはなんら判示するところがなく、ただ被告人が本件HS式無熱高周波療法を業として行った事実だけで前記法律一二条に違反したものと即断したことは、右法律の解釈を誤った違法があるか理由不備の違法があり、右の違法は判決に影響を及ぼすものと認められるので、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものというべきである。

よって、刑訴四一一条一号、四一三条前段に従い、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官田中耕太郎、同下飯坂潤夫、同石坂修一の後記反対意見あるほか、裁判官全員の一致した意見によるものである。

裁判官田中耕太郎、同下飯坂潤夫の反対意見は次の通りである。

われわれは、医業類似行為を業とすることの法律による処罰が、「人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨」のものとする多数意見の解釈に賛成することができない。人の健康に害を及ぼす虞れがあるかないかは、療治をうける対象たる「人」の如何によってちがってくる。またそれは療治の実施の「方法」の如何にもかかっている。従って有害無害は一概に判断できない場合がはなはだ多い。この故に法律は医業類似行為が一般的に人の健康に害を及ぼす虞れのあるものという想定の下にこの種の行為を画一的に禁止したものである。個々の場合に無害な行為といえども取締の対象になることがあるのは、公共の福祉の要請からして、やむを得ない。かような画一性は法の特色とするところである。

要するに本件のような場合に有害の虞れの有無の認定は不必要である。いわんや法律の趣旨は原判決や石坂裁判官の反対意見にのべられているような、他の理由もふくんでいるにおいておや。つまり無害の行為についても他の弊害が存するにおいておや。

以上の理由からしてわれわれは本件上告を理由がないものとし、棄却すべきものと考える。

裁判官石坂修一の反対意見は次の通りである。

私は、多数意見の結論に賛同できない。

原審の判示する所は、必ずしも分明であるとはいえないけれども、原審挙示の証拠とその判文とを相俟つときは、原審は、被告人が、HS式高周波器といふ器具を用ひ、料金を徴して、HS式無熱高周波療法と称する治療法を施したこと、即ち右施術を業として行ったこと、HS式無熱高周波療法は、電気理論を応用して、単なる健康維持増進のためのみならず、疾病治療のためにも行はれ、少くとも右HS式無熱高周波療法が、これに使用せられる器具の製作者、施術者並に被施術者の間では、殆んど凡ての疾病に顕著な治療効果があると信ぜられて居ること及び右治療法が、HS式高周波器により二枚の導子を以って患部を挾み、電流を人体に透射するものであることを認定して居るものと理解し得られる。

かかる治療方法は、健康情態良好なる人にとりては格別、違和ある人、或は疾病患者に、違和情態、疾病の種類、その程度の如何によっては、悪影響のないことを到底保し難い。それのみならず、疾病、その程度、治療、恢復期等につき兎角安易なる希望を持ち易い患者の心理傾向上、殊に何等かの影響あるが如く感ぜられる場合、本件の如き治療法に依頼すること甚しきに過ぎ、正常なる医療を受ける機会、ひいては医療の適期を失い、恢復時を遅延する等の危険少なしとせざるべく、人の健康、公共衛生に害を及ぼす虞も亦あるものといはねばならない。(記録に徴しても、HS式高周波器より高周波電流を人体に透射した場合、人体の透射局所内に微量の温熱の発生を見るのであって、健常人に対し透射時間の短いとき以外、生理的に無影響とはいえない。)

されば、HS式無熱高周波療法を、健康の維持増進に止まらないで、疾病治療のため使用するが如きことは、何事にも利弊相伴う実情よりして、人体、及びその疾病、これに対する診断並に治療についての知識と、これを使用する技術が十分でなければ、人の保健、公共衛生上必ずしも良好なる結果を招くものとはいえない。したがって、前記高周波器を使用する右無熱高周波療法を業とする行為は、遽に所論の如く、公共の福祉に貢献こそすれ、決してこれに反しないものであるとなし得ない。

而してあん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法が、かかる医業類似行為を資格なくして業として行ふことを禁止して居る所以は、これを自由に放置することは、前述の如く、人の健康、公共衛生に有効無害であるとの保障もなく、正常なる医療を受ける機会を失はしめる虞があって、正常なる医療行為の普及徹底並に公共衛生の改善向上のため望ましくないので、わが国の保健衛生状態の改善向上をはかると共に、国民各々に正常なる医療を享受する機会を広く与へる目的に出たものと解するのが相当である。

したがって原判示の如き器具を使用して、原判示の如き医業類似行為を業とすることを禁止する本法は、公共の福祉のため、必要とするのであって、職業選択の自由を不当に制限したとはいえないのであるから、これを憲法違反であるとは断じ得ない。単に治療に使用する器具の物理的効果のみに着眼し、その有効無害であることを理由として、これを利用する医業類似の行為を業とすることを放置すべしとする見解には組し得ない。

原判示は以上と同趣旨に出で居るのであるからこれを維持すべきものであると考へる。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一)

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